第53章 七月七日、七夕の願い(安土勢)
さて、迦羅が居なくなった庭。
武将たちが皆で目を向けているのは、短冊の飾られたあの竹。
「やっぱり…見るよな」
「そりゃそうだろ。これを見ずに七夕を終われるか?」
「迦羅様に悪い気もしますが…」
「じゃあ、お前は見ないでおけば?」
「いいえ見ます!」
「さて、あのささやかな頭で何を願うか」
「ああ、あれだ」
信長の指差す先には、一枚の黄色の短冊。
月明かりの下、文字ははっきりと読み取れた。
〝私が出会った皆が、この先もずっとずっと幸せでありますように〟
「……そう来たか」
「何だよ、俺はてっきり…」
「まぁ、あの小娘らしいか」
「そうですね。皆の幸せを願うなんて、やはり迦羅様は素敵な人です」
「少し、ほっとしたかも」
「やっぱり、迦羅は迦羅だな」
皆落胆した気持ちでもあり、しかしまた自分以外の特定の名が記されていないと言う安堵の気持ちもあった。
少なからず七夕に起こる奇跡はなかったが
これはこれで良かったのだと思った。
ーゆるく凪ぐ風がはらりと短冊を裏返す。
「ん?」
「おい…」
「えっ?」
「何だ?」
「…ほう」
「まさか……」
一同は息を呑む。
そしてそれが、明日からの波乱を巻き起こす火種となって七夕の夜を舞ったー。
完