第53章 七月七日、七夕の願い(安土勢)
「あ、迦羅様丁度いいところに!」
廊下の向こうからやって来た三成くんを見て、家康は小さく溜め息を吐く。
「あら家康様。こんばんは」
「…邪魔しないでよね」
「迦羅様、ひとつお願いがあるんですが宜しいでしょうか?」
「…しかも無視」
「あ、うん。お願いって?」
「ええ、ちょっとこちらへ」
誘われるまま廊下の端までやって来ると、三成くんはいくつかの箱を開けて私に見せた。
「季節柄、風鈴を飾ろうと思うのですが、どれがいいか悩んでいたんです」
「わぁ、綺麗な風鈴ばっかりだね」
「全部飾る訳にはいきませんから、女性の意見を聞きたいと思いまして」
「そうだなぁ…」
目に留まったのは、流水紋に金魚の描かれたシンプルな風鈴。
「凝ったものも素敵だけど、私はこう言うのが良いな」
「奇遇ですね、私も一番好きなんです。ではこれにしましょう」
「うん」
箱から風鈴を取り出すと、三成くんがチリンとひとつ音を鳴らした。
「好きなものが一緒と言うのは、こんなに嬉しいことなのですね」
「ん?」
「好きな女性と、好みが同じだなんて素敵なことだと思いませんか?」
「好きな…女性?」
「ええ。迦羅様ですよ」
み、三成くんまで何を言い出すの??
心を溶かすような天使の微笑み。
それがひどく胸に刺さり、揺れる。
「あ、あの……」
どう言ったらいいかわからず、言葉に詰まっていると、視界に入って来たのは甕を抱えた光秀さんだった。
「これは丁度いい。迦羅、手伝え」
「は、はい!」
「あら…邪魔が入ってしまいましたね」
残念そうな三成くんの声を聞いたところで、私は光秀さんの後を追い再び広間に戻った。
広間の隅には空の徳利が置いてあり、そこへ光秀さんが甕を下ろす。
光秀さんが柄杓で器用にお酒を移し替えながら、私に話し掛ける。
「三成の告白に応えるのか?」
「いや、それは……」
「お前はああいう男がいいのか?」
「…良くわかりません」
「甘いだけの男より、意地悪をされたほうが好きそうだが?」
「意地悪って…」
「俺なら、お前の好きなようにとことん苛めてやるぞ」
「なっ、光秀さん…」
薄い笑みの浮かぶ顔に妖艶な雰囲気を纏う光秀さんに釘付けになる。
ど、どうしよう私…