第53章 七月七日、七夕の願い(安土勢)
夕刻も近付き、城内では宴の準備が始まっている。
台所では政宗が指揮を執り、見た目にも美味しそうな料理が次々に出来上がっていた。
「やっぱり政宗ってすごいね。お嫁に行けるんじゃない?」
「おい、俺は嫁を貰うほうだろ。何ならお前が来てもいいんだぜ?」
「えっ…!?」
ま、政宗…。
まるで獲物を狙うかのような鋭い眼差しを向けられて、胸がドキンと鳴る。
「こーら、抜け駆けするんじゃない」
「何だよ邪魔しやがって…」
「迦羅、広間のほうを手伝ってくれないか?」
「うん、いいよ」
タイミング良く現れた秀吉さんに連れられ、私は広間へと向かう。
広間では、積まれた空の膳を、私と秀吉さんで等間隔に並べていった。
「なあ迦羅。政宗のところになんか嫁に行くなよ」
「あはは、あれは政宗の冗談でしょ?」
「俺のところに来る気はないか?」
「えっ!?ひ、秀吉さん…」
「どうなんだ?」
柔らかな微笑みを見せる秀吉さんに、また私の胸が高い音を鳴らした。
「…抜け駆けですか」
開け放たれている襖の前から、家康が現れる。
その手には何処から摘んで来たのか、可愛らしい花があった。
「間が悪いぞ、家康」
「ねぇ、迦羅。これ飾るの、手伝って」
「う、うん!」
家康の登場に自嘲気味に笑う秀吉さんと別れ、広間から少し離れた廊下で、家康が用意してくれた花瓶に花を飾る。
「可愛い花だね。わざわざ摘んで来てくれたの?」
「あんた好きでしょ?こう言うの」
「うん、好きだよ」
「…俺のことは?」
「うん、好……えぇ!?」
「…何。で、どっち?」
「そ、そんな事っ…」
早く答えろと言いたそうな家康の目が私を捉え、妙なドキドキが湧き上がる。
な、何なの皆して…