第53章 七月七日、七夕の願い(安土勢)
「うーん…何て書こうかなぁ」
自室で文机の上に置いた短冊と睨めっこしながら、私はまだ悩んでいた。
書きたいことが多過ぎて、纏まらない。
もう七夕当日だって言うのに…困ったな。
まさか皆があんなに簡単に願い事を書いてしまうなんて思わなかった。
文句も言わずに全員が書くなんて…
よっぽど決まった願い事があるんだよね。
……私も素直に書けばいいか。
サラサラサラサラ。
ぎこちない手つきで筆を滑らせ、ようやく短冊にそれを書き終えた。
ありきたりだって思われるかもしれないけど、やっぱりこれが一番だよね。
本当はもうひとつ大事な願い事があるけど
竹に飾ったら皆が見ちゃうよね…
やっぱり書けないや。
そして書き終えた短冊に吊るし紐を通していると、突然声も掛からずガラリと襖が開かれる。
「わっ!」
「おい迦羅、入るぞ」
「…普通開ける前に言いません?」
「そうですよ、よりにも寄って女性の部屋なんですから」
「言ってる割に真っ先に入るんだなお前」
「え?何です?」
現れたのは政宗と家康と三成くん。
「どうしたの?」
「会議が終わったので遊びに来てみました」
「そっか。あ、お茶でも淹れて来るね」
台所に向かおうとした時、湯呑みが乗ったお盆を手にした秀吉さんがやって来る。
「茶なら用意して来たから大丈夫だ」
「あ、ありがとう」
…珍しいな、皆で遊びに来てくれるなんて。
今日はもうお仕事ないのかな?
皆で腰を下ろし、秀吉さんの淹れてくれたお茶を飲む。
さすが秀吉さん。
程良い温度のお茶がこの暑さに丁度いい。
そうこうしていると、優雅な足音と共に今度は信長様がやって来た。
「貴様ら、今宵は呑むぞ」
「お、宴か?」
「急ぐ仕事もあるまい。日頃の労いだ」
「わぁ、七夕の夜に宴なんて楽しみですね」
「貴様、まだ短冊を吊るしていないようだが、忘れている訳ではないだろうな」
「え?あっ、そうだった!」
「言い出しっぺがそれじゃ、困るんだけど」
「皆楽しみにしているんですからね」
「楽しみ?」
「三成。余計なこと、言わないでくれる?」
どうしたのかな?…まぁいいや。
私も早く短冊吊るさないとね。
七夕への色んな想いが詰まった、そんな穏やかな昼下がりだった。