第53章 七月七日、七夕の願い(安土勢)
「何を話していたのだ?」
先程のやり取りを見ていた信長は、二人に問いかけた。
「迦羅の奴、まだ短冊を書いてねぇってさ」
「悩む程願い事があるようですね」
「あいつから言い出したことではないか。何をもたもたしている」
「悩む程って…へんな子」
「だが、迦羅の願い事とは興味があるな」
「私たちは全員書き終えているんですけどね」
そう。
七夕飾りをしたいと言う迦羅の希望で、昨日のうちに竹を運び、武将たちは皆短冊を書き終えている。
竹に吊るされたその短冊を、皆それぞれが人気の無い頃を見計らって盗み見ていた。
そしてその全員が、図らずも自分以外の皆も迦羅の事を願いとして書きしたためている事を、知っている。
「迦羅の願いか……」
「一体何て書くんでしょうね」
「…………」
いつしか会議の議題はそっちのけとなり、誰もが皆、迦羅の短冊に込める願いが己のことであれば良いと祈るしかなかった。
互いの胸の内を知った以上、誰も迦羅の心を他人に譲り渡す気など無かったのだ。
「コホン。…まぁ兎に角、先ずは会議を終わらせてしまいませんか?」
「そうだったな。始めるぞ」
秀吉の促しにてようやく会議が始まる。
皆の顔は引き締まり、挙がる議題を次々に片付けていった。