第53章 七月七日、七夕の願い(安土勢)
七月七日。
安土城の庭に大きな竹が一本立てられていた。
それぞれの願い事が書かれた短冊が六枚、そこに飾られている。
そう…六枚。
〝迦羅が未来永劫この安土にて俺と共に在るように。ー織田信長ー〟
〝もうちょっと、迦羅と仲良くなりたい。…いや、それ以上。ー徳川家康ー〟
〝何が何でも迦羅を手に入れる。ー伊達政宗ー〟
〝可愛い可愛い迦羅が、いつか俺に振り向いてくれますように。ー豊臣秀吉ー〟
〝迦羅様と恋仲に…なんて無理でしょうか?でも、お願いします。ー石田三成ー〟
〝迦羅と言う愛しい女を、これからも思う存分に苛めてやりたい。ー明智光秀ー〟
「あ〜見えないなぁ。皆何て書いたんだろう…」
そんな願いの書かれた五色の短冊は、竹の高い位置に吊るされていて、背丈の小さな迦羅には覗き見ることは出来なかった。
肝心な迦羅はと言うと…
思いつくことがあり過ぎるようで、未だにその短冊に願いは書かれていない。
「おーい、早くしないと七夕終わるぞー」
「まだ悩んでんのかよ?そんなもんパッと書いちまえよ」
縁側から声を掛けたのは秀吉と政宗。
迦羅は竹を離れ、二人の元へ行く。
「だってお願い事がひとつだけって難しくって…」
「ははっ、お前欲張りなんだな」
「じゃあ俺と結ばれるようにって書いとけよ」
「な、何で政宗となの?」
「あ?不満か?」
「いや、不満と言うか…」
そんな話をしていると、他の武将たちもやって来る。どうやら午前の会議のようだ。
「じゃあまた後でな。ちゃんと書いとけよ?」
「うん、わかった」
返事はするもののまだ悩んでいる迦羅を残し、皆は広間へと入って行った。