第52章 彩−irodori−(石田三成/甘々)
ー翌日。
午後の穏やかな温かさの中、私はまた注文の品を仕立てにかかっていた。
「迦羅様っ!行きますよ!!」
「わぁっ!!」
突然勢い良く開かれた襖に驚いて、また針を指先に刺してしまった。
「あら、大丈夫ですか!?」
駆け寄って来る三成くんに、すかさず血の玉が浮かぶ指を口に含んだ。
「あらっ…」
「ふふっ、残念でした」
何故か残念そうに肩を落とす三成くん。
またあんな事されたんじゃ、ドキドキしちゃうからね。二度目はそうはいかないよ。
「って言うかもう少し静かに入って来てくれないかな?」
「あ!そうでした!行きますよ!」
「…だから何処に行くの?」
「着いてのお楽しみですよ」
微笑む三成くんに手を引かれ、半ば強引に部屋を連れ出される。
理由もわからないまま馬に乗せられ、城を離れて行く。
のどかな田園風景を眺めながら、三成くんの駆る馬は西へと向かう。
「三成くん、公務から戻ったばかりでしょう?疲れてないの?」
「こうして迦羅様と居る時間が、私の何よりの休息なんですよ」
「そうなの?…それならいいけど」
「あ、迦羅様は疲れていましたか?」
「ううん。私も三成くんの顔を見たら元気になっちゃったよ!」
「ふふ、それならいいです」
二人で同じように感じていることがわかって、こうして眺める何気ない景色が、何だか特別なものに思えた。
半刻程馬に揺られ、視界の先にひとつの集落が見えた。
近付いていくにつれ、祭囃しが聞こえて来る。
「あれ…三成くん、ここって…」
「はい。今日はお祭りですよ」
僅かに薄暗くなった辺りには、下げられた提灯が幻想的に淡く灯りを灯している。
「どうしてここに…?」
「たまにはいいでしょう?頑張った迦羅様へのご褒美です」
そっか…三成くんは知ってたんだ。
私の仕立てた祭り衣装が、この村のものだってこと。
私がお祭りに行きたいと思っていたこと。
村にはすでにたくさんの人が集まって、とても心地の良い賑やかさだった。
三成くんと並んで歩けば手と手が触れて
そしてそっと指先が繋がれる。
賑やかなお祭りなのに、まるで二人の世界に踏み入れるような…そんな気がしていた。