第52章 彩−irodori−(石田三成/甘々)
うーん……
手伝いは何とか断ったけれど、こうして隣で見ていられるのも落ち着かないかも。
でも折角来てくれたんだもんね。
もう少し一緒に居たいとも思うし。
手元に視線を落としながらも、時折伺うように隣の三成くんをチラリと見た。
ニコニコと私の手元を見つめる三成くんに目を奪われ、針先が指に刺さる。
「…っつ」
「ほら、ちゃんと手元を見ないと危ないですよ」
私の手を取った三成くんは、一滴ばかりの血の玉を浮かべる指先を見つめると…そっと唇を当てた。
「み、三成くんっ…!?」
慌てて手を引っ込めようとするけれど
やんわりと掴んでいる手を離してはくれない。
綺麗な唇に付いた血をペロリと舌で拭う姿に、胸の奥がわけのわからない悲鳴を上げ始めたー。
「こんな怪我をする迦羅様ですから、私が居ないと困るでしょう?」
私の手を掴む力は抜かれているのにどうしてだろう…。その手から離れられないでいた。
「…今日はもうやめるよ」
「それなら安心です。夜はゆっくり休まなければなりませんからね」
こんなにドキドキさせられたんじゃ…縫い物なんか出来るわけがないよ。
…三成くんて、結構意地悪なのかも。
私にばっかり、こんなドキドキさせるなんて。
そんな風に感じて俯いたその時、今度は指の背に柔らかな感触が落ちる。
思わず顔を上げれば、指に唇を着けたままで微笑まれる。
「…っ!」
「少し、赤くなりましたね」
「もう!そんな風にからかわな…」
言い終わらないうちに身を乗り出した三成くんの唇が、今度は瞼に触れる。
そしてその次は…
影が落ちたかと思うと、私の唇へと、柔らかな感触が移った。
「んっ…」
軽く触れただけの唇。
すぐに離れるけれど、吐息のかかる位置で三成くんと目が合う。
「これでも私は、我慢しているんですからね」
「み、三成くん…」
「迦羅様が眠れなくなるといけませんから。私も御殿へ帰ります」
「…うん」
遠退く三成くんの気配に寂しさを感じながらも、引き留めることも出来ずにゆったりと立ち上がる姿を見上げた。
「おやすみなさい迦羅様。また明日」
「うん、おやすみなさい」
静かに閉じられる襖。
…仕立てが間に合わなかったら、三成くんのせいだからね…。