第51章 情恋歌(明智光秀/裏甘)
ー三日後ー
間も無く陽が暮れ入る安土城下。
俺と秀吉は馬を並べ城への道を辿っている。
城門へと近付いた時、ひとり落ち着かぬ様子でウロウロとしている迦羅の姿が目に入った。
蹄の音に気が付いた迦羅は
顔を上げて、パッと笑顔になった。
「光秀さん!!」
「こんな所で待っていたのか」
「お帰りなさい」
「ああ、ただいま」
馬を降りると、直ぐに駆け寄って来る。
この愛くるしい顔、見ない日はたかが三日だが、長いこと見ていなかったように思える。
が、思ったより不安がっていた様子はない事に安心した。
「すっかり二人世の界だな」
秀吉が茶化すように言った途端、迦羅の顔が赤く染まる。
「何だ、妬いているのか?」
「何を馬鹿なことを」
「別に妬いても構わないが。それより迦羅、御館様に報告を上げて来る。お前は部屋で待っていろ」
「あ、はい」
報告を終え、迦羅と二人、薄闇の城下を歩いている。
頬を撫でる風が心地良いものだ。
一歩後ろを控え目に着いて来る迦羅。
その足が突然止まった。
「あの、光秀さん」
「どうした?」
「いいんですか…?その、こんな時間に…」
「俺と二人になるのが嫌なのか?」
「違います!…そうじゃ、ないんですけど」
「ならば良いだろう」
「…はい」
何を言いたいのかはわかっている。
だが、俺は待てを聞く犬とは違う。
意地悪を言うつもりは無いが、どうやら今日は、お前を自由にさせてやる余裕は無いようだ。
…逃げられたのでは堪らんな。
小さな手をキュッ握ると、俯いていた顔を上げた。
「どういう意味かは、わかっているだろう」
「……っ!?」
一瞬にしてそれは濃い桃色へと染まった。
返事こそ無かったが、僅かに握り返す温かな手が教えてくれる。
合わさる掌からでさえ、鼓動が伝わる気がした。
それはお前のものでも、俺のものでもある同じ鼓動が。