第51章 情恋歌(明智光秀/裏甘)
しばらくすると、部屋の外から光秀さんに声がかかる。
「光秀様、そろそろお時間です」
「そうか、わかった」
立ち上がった光秀さんは私の頭をポンと優しく叩き、何処かへ行くみたい。
「あとは一人で読んでみろ」
「あ、お仕事ですか?」
「まぁ、そんなところだ」
そう言って部屋を出て行った。
仕事なら仕事って言ってくれればいいのに。
忙しい中で私に教えてくれているんだから。
一人になった私は、続きを読み始める。
でも、さっきまで読めていたはずの文字が今では読めない。
え?何で??
この文字も、この文字も、光秀さんが読んでくれている間は頭に入っていたのに。
これじゃあまた振り出しに戻っちゃう。
ちゃんと出来るようにならなきゃ光秀さんにも迷惑をかけることになるのに。
はぁ…もう一回、最初からやろう。
ー夕刻ー
皆で夕餉をと誘われて、武将の面々が介した広間に居た。
見渡してみるけど、そこに光秀さんの姿はない。
「あの、光秀さんはいいんですか?」
「何だ、気になるのか?」
「いえ、昼間に忙しそうに出掛けていったので」
「あいつはいつも勝手に居なくなるんだ。気にすることはないぞ」
「…うん」
秀吉さんが言うんだからそうなんだよね。
って言うかいつものことなんだ…。
慣れた様子の皆と一緒に、私も食事を始めた。
「ところで貴様、教育係とはどうだ?」
「はい、良く教えてもらってます」
「無理することはないんだぞ、迦羅」
「ううん、本当に親切にしてくれてるよ?」
「…何か、意外」
「なるほどね。ははっ、こりゃいい」
皆何か言いたげだけど…何だろう。
まぁ光秀さんの普段のあの様子じゃ、意外と思われても仕方ないのかな。
明日には帰ってくるかな…光秀さん。