第50章 三色の秘薬(家康・光秀・佐助/微甘)
ー家康の場合ー
光秀さんの御殿を出て通りを歩いていると、向こうからカゴを持った家康が歩いて来るのが見えた。
「あ…」
「家康!お出掛け?」
「うん」
「……そっか」
「………」
何だろうな、まだ家康のこの素っ気ない感じに慣れないかも。
悪気がないのはわかってるんだけど。
「ねぇ、あんた、暇?」
「うん。今日は針子もないし暇と言えば…」
「採りに行くから、手伝って」
「え?」
「…薬草」
つかつかと先へ行ってしまう家康を追い、暫く歩いて城下外れの河原に着いた。
見た感じ、薬草なんかなさそうだけど…。
「ほら、こっち」
緩やかな川には大きめの石が点々と続いていて、どうやらそれを渡って向こう側に行くみたい。
「これ、渡るの?」
「そう」
そしてまた家康の後に続いて石の上を渡って行く。
川の流れは緩やかだけど、安定感のない足元の石が少し怖い。
おっかなびっくり歩いていると、濡れた石に足を滑らせてしまった。
「わっ……!!」
落ちると思った瞬間、前を行く家康がパッと私の腕を掴んで支えてくれた。
「…本当、危なっかしい」
「あ、ありがとう」
面倒くさそうに言う家康だけど
川を渡り切るまで、その手は私を掴んだままだった。
こうやってたまに見せてくれる優しさに、弱いんだよね。私。
こちら側は、すぐそこが森になっていて
たくさんの草木が生い茂っている。
ひとつ、葉を摘んだ家康がそれを私に手渡して見せた。
「これと同じの、採ってくれる?」
「うん、わかった」
それから私と家康はそれぞれに薬草を摘み
半刻経つ頃にはカゴが一杯になっていた。
「もう十分だから、帰るよ」
「うん。…あ!待って!」
さっき見つけた薊の花をひとつ摘んでカゴに入れる。
帰ったらお部屋に飾ろう。
また川を渡る所へ来ると、家康がサッと手を差し出した。
「…いいの?」
「川に落ちて、ずぶ濡れになりたいなら、別にいいけど」
「それは嫌だな…」
「だったら、ほら」
「うん、ありがとう」
家康の温かい手に引かれて川を渡り終え
私たちは城下への道を戻って行った。