第49章 華〜hana〜(織田信長/裏甘)
晴々と澄み渡る空ー。
高らかに自由な空を舞う鷹が、ひとつ声を上げた。
情事の後の気怠さをそのままに
天主の縁から眺める景色は平穏そのものだ。
「私、何だか落ち着きません」
「折角こうしてやっているのだ。落ち着け」
「んー…やっぱり逆のほうがいいです」
「いや、駄目だ」
何処か不満そうに俺を見上げる迦羅は、胡座をかいた俺の膝枕で横になっている。
いつもは俺が迦羅の膝枕で寝るところなのだが、今日はこうして俺がしてやりたくなったのだ。
「信長様、足、痺れません?」
「何とも無い」
「重くないですか?」
「重くなどない」
「…そうですか」
迦羅は先程から、どうにかこの状況を脱しようと色々と話し掛けて来る。
俺がこんなことをするなど
初めてのことだからな。
貴様が落ち着かんのもわかるが。
迦羅がいつもそうしてくれるように優しく頭を撫でてやる。
「雨が、降るかもしれませんね」
「そうか?」
見上げる空はどこまでも青く、雨の気配などまるで無い。
何を言っているのか。
…ん?
「おい貴様、どう言う意味だ」
「ふふっ、気にしないで下さい」
「そうはいかん。正直に言ってみろ」
「だってこんな事したことがないのに。雨が降るかもしれないなーと思ったんです」
「ほう、言うようになったな」
まぁ、否定はしないがな。
肩を震わせてくすくすと笑い出す迦羅につられ、俺もまた、己の変わりように可笑しくなった。
ーと、襖の向こうから声が掛かる。
「御館様、宜しいでしょうか?」
「秀吉か。どうした」
「昼の会議で議題にあがるはずだった領地の報告書が遅れておりまして、如何いたしましょう」
「ならば報告書があがるまで待て」
「はっ、承知しました」
そうか、会議もなくなってしまったか。
だがこんな日も悪くは無い。
いつの間にか膝の上でうとうとし始めた迦羅の顔を見ながら、何の変哲も無い穏やかな時を、感じていた。
「俺は貴様と巡り合ったことを、この上無い幸福であると思っている」
「………」
聞いているのかいないのか、目を閉じた迦羅は少しだけ微笑んでいた。
「…ありがとう、迦羅」