第49章 華〜hana〜(織田信長/裏甘)
ー昼下がりの城下。
「信長様!先日の勝ち戦、おめでとうございます」
「いや、戦となる度に心配をかけるな」
「とんでもない!我々は皆、信長様のお陰でこうして暮らしていけるのです」
「そうか」
あの後、会議のなくなった信長様が久しぶりに城下の様子を見たいと言い出して、こうして二人で町を歩いている。
いつものように人が溢れ、活気のある町。
だけど、前とは少し違っている気がした。
ううん、町が変わったんじゃなくて、そこに暮らす人たちと…信長様が変わったんだと思う。
「これは信長様!御苦労様で御座います」
「ああ。精が出るな」
「ええ、お陰様で」
以前なら、こうして町の人が信長様に声を掛けることは滅多になかった。
それは確かに一国の主に気安く声を掛けるなんて出来なかったのかもしれないけれど、今こうして見ていると、変に壁を隔てようって言うんじゃなくて。
信長様の纏う空気が変わったんじゃないかと思うの。
前にも増して柔らかくなったと言うか…。
何に対しても、一線を引かなくなったと言うか。
「どうした?」
「いいえ、何でもありません」
「何だ、ニヤニヤして可笑しな奴だ」
向けられるのは見慣れた笑顔。
今はそれを、私だけじゃなくて、ここに暮らす皆に向けてくれる。何だかそれがすごく嬉しい。
「茶でも飲んで行くか」
「はい!」
少し先を行く信長様の背中が、ますます大きくて誇らしく見える。
色んなものを背負い込んだ背中だけど
私が、少しでも軽くしてあげたいと思う。
「おい、行くぞ」
振り返った信長様は手を差し伸べてくれる。
この大きな手が捕まえていてくれる限り、幸せは何処へも行かない。
「信長様」
「何だ」
「良かったですね、雨が降らなくって」
「貴様、まだ言うか」
完