第48章 恋の忍びに御用心(猿飛佐助/甘め)
「あ、そうだ。私お遣いを頼まれてるから、この辺で失礼するね」
「そうなんだ、わかった」
「じゃあまたね、佐助くん、幸村!」
ヒラヒラと手を振って、眩しいくらいの笑顔を残し迦羅さんは去って行った。
その姿が見えなくなると、途端に心寂しいような気持ちが湧き上がって来たんだ。
やっぱり俺は、迦羅さんのことを…。
「お前さ、もうちょっと顔に出せば?」
「顔に?」
「あいつに惚れてんだろ?」
「そうかもしれないね」
「無表情だからややこしいんだよな」
なるほど。言葉にも出来ず、顔にも出せないとなると…この恋は荊の道なのかもしれないね。
少し訓練でもしようか。
「さて、あいつも居なくなっちまったし、早く帰ろうぜ」
「そうだね」
まだ陽が真上にある頃に露店を畳み、また春日山に向かって帰路を辿った。
そして薄っすらと月が見え始めた頃、春日山へ戻って来た俺と幸村を出迎えたのは謙信様だった。
「お前たち、何処へ行っていた」
「いつもの行商ですよ」
「そんな予定は聞いていないぞ」
「予定は未定ですから」
「訳のわからんことを言うな。鍛練の予定が台無しだ」
「佐助に言って下さいよ」
「さあ今から付き合え」
「…疲れてるんですけど」
「知るか。行くぞ」
謙信様は左右の手で俺と幸村の耳を片方ずつ引っ張り、手加減無しに鍛練場へと連れ込んだ。
明け方からの往復で身体は疲れてはいるが
迦羅さんに逢ったからだろうか?
不思議と心の疲れは一つもなかった。
「謙信様、今日は朝まで付き合いましょうか」
「おい佐助!余計なこと言うんじゃねー!!」
「ほう、いい心掛けだ」
「俺は御免だからなっ!」
「幸村、尻尾を巻いて逃げるか」
「朝までなんかやってられねーよ!」
結局この日、目の色を変えた謙信様と、長い長い鍛練の時間を過ごした。