第47章 ひとひらの純愛(徳川家康/微甘)
はぁ、はぁ。
秀吉さんの御殿から城まで、迦羅に逢いたい一心で走って来た。
迦羅の部屋の前で、呼吸を整えながら、襖の向こうに声を掛ける。
「迦羅?」
「………」
「迦羅、居ないの?」
襖の向こうは静まりかえって、居る様子がなかった。
迦羅、何処に行ったの?
あたりを見回していると、女中の一人が俺に気付いたようだ。
「あら、迦羅様なら先程お出掛けになりましたよ」
「何処に行ったの?」
「そこまでは…。何だか一人になりたいとおっしゃって」
…あそこか。
考え事する時、あの子は決まってあの野原に行くんだ。
迦羅が一人きりで何を考えているかと思ったら、また自然と足は走り出していたー。
陽が暮れ始めた安土。
野原に足を踏み入れた俺は、小さな草花の咲く上に、寂しそうな後ろ姿を見つけた。
迦羅を見つけた安心と、漂う寂しさに、胸がギュッとなってゆっくりと近付いていく。
近くに行ってみれば、迦羅の肩が小さく震えている…。
「うっ…、っく」
膝を抱えるようにして座る後ろ姿からは、押し殺す嗚咽が漏れる。
泣いてるの?
こんな所で…一人で泣いてるの?
今、俺の胸はひどく痛い。
流れる涙の理由を、一番良く知っているんだから。
「ー!!?」
堪らない痛みに、言葉よりも先に身体が動いた。
迦羅の肩がそれ以上震えないように、そんな願いにも似た感情が溢れて来て、華奢な後ろ姿を目一杯抱きしめていた。
「ごめん、本当にごめん」
そんな言葉しか出て来ないんだ。
俺の願いとは裏腹に、抱きしめる迦羅は益々肩を揺らして泣き出してしまった。
「…お願いだから、泣かないで」
「っ…うぅっ」
流れる涙が顎先を伝い、抱きしめている俺の腕にぽたりと雫となって落ちる。
こんなに冷たい涙を流す程、迦羅は傷付いてた…。
ズキンと確かな音を立てて
俺の心も複雑に哭き始める。
腕の中で、必死に涙を止めようとしていることがわかって…それ以上は言葉を掛けずに、ただ寄り添うしかなかった。