第47章 ひとひらの純愛(徳川家康/微甘)
どのくらいそうしていただろう。
ようやく迦羅の涙の雫は止まっていた。
「…もう、疲れたよ」
掠れた迦羅の声が、グサリと刺さる。
「どんなに私が…追いかけたって、家康は…もっと遠くに逃げて行くんだもん…」
秀吉さんの言う通りだったんだね。
迦羅は、我が儘な俺を追うことに疲れてる。
「家康は…私が邪魔なの…?」
「馬鹿なこと言わないで!」
迦羅の口から出た思いも寄らない言葉に、無意識に声が大きくなってしまった。
「俺は、あんたのことが好きで、大好きで仕方ないよ」
「だったらどうして…」
「ごめん…迦羅」
どうしたら上手く言えるの?今の俺は謝ることしか出来ないんだ。
寂しい思いをさせたり、泣かせたり、そんなこと本当は望んでなんかないよ。あんたにはいつも笑ってて欲しい。
ただそれだけのことを、俺は満足に叶えられない。
「もう俺を、追いかけなくていいよ」
「…やっばり、私のこと…」
「今度は俺が、迦羅を追いかけるから。どこまでも、ずっと」
秀吉さんの言うみたいに、二人で一緒に歩いていくのは、俺には未だ先のことになりそうなんだ。
今までずっと迦羅が俺を追いかけてくれたように、今度は俺が、必死に追いかける番なんだ。
こんなに大事なものを、失わないように。
そしていつか本当に二人で並ぶことが出来たら、その時、やっと俺たちが二人で歩き出す時なんだ。
俺がもっと大人になって、遠回りなんかしなくてすむようになるまでは、この背中を見失わないように…
俺が迦羅のこと、追いかけ続けるから…。
「家康になんか…捕まらないから」
拗ねた迦羅の言葉が少しチクリとするけど、もう決めたんだ。
「絶対、逃がしてあげない」
「…家康なんか嫌い」
「………」
「家康なんか大っきらー」
言い終える前に言葉を遮り口付けを落とす。
重ねた唇からは涙の味が滲んで、いつもと違う味がした。
「大嫌いは、大好きってことでしょ」
「…馬鹿」
「それも、好きって意味だからね」
例えば迦羅が本気で言っていたとして、受け入れないよ。
俺はこれからうんと反省して、償って、迦羅を幸せにするんだからー。
完