第47章 ひとひらの純愛(徳川家康/微甘)
「いや今日もまた一段とお美しいですな姫様」
「あ、ありがとうございます…」
国の報告が一通り終わったところで、大名はさっそく迦羅に食い付いて来る。
…確かに迦羅は綺麗だけど、あんたがそんな目で見ていい相手じゃない。
ジロジロいやらしい目で見ないでよね。
「姫様、あのお話は考えて頂けましたか?」
「あの、そのことは…」
「悪いが、この女はくれてやれんぞ」
「それはどのようなことで?」
「迦羅は俺の正室となる女だ」
「ええ!?」
信長様の一言に、大名は目を丸くするばかり。
…予想通り、効果はあったみたいだ。
「し、しかし以前はそのような話は伺っておりません」
「正式に決定したのはつい先日だからな」
「…なんと言うことか」
余程残念だったのか、がっくりと肩を落としうな垂れてしまった。
「そうですか…。姫様、どうかお幸せに」
「はい、ありがとうございます」
気の毒だけど、きっぱり諦めてもらわないと。
「では私はこれで失礼いたします」
迦羅と信長様に深々と頭を下げた大名は、明らかに意気消沈している。
「城門まで送ろう」
「いえいえ!とんでも御座いません!」
「わざわざ足を運んでくれたのだ。見送りも悪くなかろう」
「恐縮で御座います」
立ち上がった信長様は迦羅の手を取って立たせ、二人連れ添って広間を後にする。
…大名に見せつけるためにわざと見送りなんて。
でも、二人の後ろ姿を見ていたら
すごく胸がもやもやしてきたんだ。
迦羅の手を取って隣を歩いているのが、信長様だから…。
いや、何考えてるんだろ。
これはあくまでもそう言う設定でやってるだけのことでしょ。
俺は何をいちいち気にしてるの。
濃い靄がかかっていくような胸の内に、俺は言い聞かせるようにしてぐっと押し込んだ。