第47章 ひとひらの純愛(徳川家康/微甘)
…とりあえず終わった。
残ってる仕事、片付けなくちゃ。
広間を出ると、廊下の奥から通りすがった家臣たちの話し声が聞こえてくる。
羨望も感嘆も入り混じったような、話し声。
「やはりお似合いだなあ」
「そりゃそうだ!あの貫禄ある御館様と美しい姫ときたら…」
「そうであれば安土も安泰と言うものだが」
「いやー、相手が御館様でないとは残念だねぇ」
「………」
「い、家康様!?」
離れた所で俺が睨みを効かせていると、存在に気付いた家臣たちは慌てふためいて逃げるように去っていく。
わかってる…
家臣の中には、迦羅が信長様とくっつけばいいと思ってる連中も居るってことくらい。
でも、そんなのどうだっていいんだ。
その時廊下の奥から現れた二人。
信長様は迦羅の肩を抱き、迦羅は照れくさそうに、まるで本物の恋仲であるかのように寄り添う。
もうあの大名は居ないって言うのに…いつまでそうやってるつもりなの?
「あ、家康!」
「………」
「どうしたの?あ、やっぱり似合わないかな?」
俺に駆け寄ってくると、豪華な着物に目を落として不安そうにはにかむ迦羅。いつもみたいに可愛くて、愛しくて。
…似合ってるよ。
祝言前の二人みたいにね。
「お似合いだね、あんたたち二人」
何言ってるんだろう。
これはただの天邪鬼な言葉じゃないんだ。
何て言うか……
「お似合いって…私と、信長様が?」
「家康、貴様は何を妬いている」
「本当にそう思っただけ」
「やだな…何言ってるの家康?」
「俺なんかよりいいんじゃない」
何だろう、悲しいのかな…俺。良くわかんないや。
自分がどんな顔してるか何となくわかって
居心地の悪くなった俺は二人に背を向けて逃げるように歩き始めた。
「家康っ!!」
迦羅の呼ぶ声を背中で受け止めたけど
頭の中がぐちゃぐちゃになって、振り返ることは出来なかったんだ。
ーそんなことがあって、迦羅は此処へは帰って来なかったんだ。
……そろそろ行かなきゃ。
城へ行ったらまず迦羅に謝ろう。
俺がどうかしてたって、ちゃんと言わなきゃ。
本当、どうしたのかな、俺。