第46章 悪戯な恋文(真田幸村/甘め)
陽が暮れ始めた頃、城下へお遣いにやって来ていた私は、帰り道に足を早める。
夕暮れには、領地の視察に行っている幸村が帰ってくるって佐助くんが言っていたから。
早く幸村に逢って、ちゃんと伝えなきゃ。
「あれ、迦羅ちゃーん!」
「え?」
声のしたほうに視線をやると、たたみ始めた露店の一角からこちらに手を振り駆けてくる楓ちゃんの姿ー
え?どうして楓ちゃんが…!?
「昨日帰ったんじゃなかったの?」
「それがさ、商品があんまり売れ残ってるんで、これじゃ帰れねぇ!って急にお父さんがさぁ」
困ったようにはにかんだ楓ちゃん。
文のこと…渡したって言わなきゃ。
きっと気になってるよね、楓ちゃん…。
「あのね、昨日預かったあの文ー」
言いかけたその時、突然背後から肩を掴まれて言葉を切った。
「何してんだ?こんなとこで」
幸村!?
このタイミングで帰って来たの!?
「あ、あの…例の…」
恋文の女の子だよって目で訴えかけると、幸村は納得したように小さく頷いた。
「やだ迦羅ちゃん!いい人居るんじゃない!」
「…えっ??」
あれ、楓ちゃん幸村のことが好きなんだよね?
そこ納得しちゃっていいの…??
どうなっているのか私が動揺していると、代わりに幸村が楓ちゃんに声をかけていた。
「どうも、真田幸村です」
「…えぇ!?あなたが幸村様っ??」
目の前の男が幸村だと知った楓ちゃんは、何故かひどく混乱しているように見える。
一体どうしたの?
「俺が幸村だけど」
「ご、ご、ごめんなさい!私何か勘違いしてました!!」
「楓ちゃん、勘違いって…?」
「私、幸村様っててっきりあの眼鏡をかけた人だと思って…」
春日山城にいて
眼鏡をかけた…?
ま、まさか佐助くんと間違えてたの!?
「俺とあいつを間違えんなよな…」
「本当にすみません!」
「悪いけど、文は開けちまったから書き直してくれよ」
「はっはい!」
ペコペコと頭を下げる楓ちゃん。
「何か色々ごめん!迦羅ちゃんに悪いことしちゃった…」
私にも頭を下げると、混乱したままの楓ちゃんは風のように戻って行く。
私は安心したのか気が抜けたのかわからないけど、そんな楓ちゃんの後ろ姿を見つめていた。