第46章 悪戯な恋文(真田幸村/甘め)
次の日。
あの後幸村がちゃんと文を読んでくれたか、どうしても気になった私は、幸村の部屋を訪れた。
「…幸村?」
返事は無い。
襖を開けると、そこに幸村は居なかった。もう仕事に行っちゃったのかな。
文机には、あの封筒ー
近付いてみると、封は切られて読んだ跡がある。
…良かった。
楓ちゃんとの約束を守れたことにホッとするけど、それとは別に複雑な私の心。
この文を受け取って、幸村はどう思っただろう…
恋人である私から、他の女の子からの恋文を渡された幸村は…私を嫌な女だと思ったかもしれない。
胸がモヤモヤして嫌な感じがする。
城の中を歩き回っても、幸村の姿は無かった。
自然と足が向かったのは信玄様の部屋。
幸村を良く知ってる信玄様なら、何かアドバイスをくれるかもしれない…
私はきっとそう考えたんだと思う。
「信玄様、いらっしゃいますか?」
だが、こちらも返事は無い。二人共留守にしてるのか…。
自室へと戻る途中、ふと庭に視線を向けると、池の周りに白い躑躅の花が咲き乱れている。
清らかな純白の花が、とても美しく見えた。
何となく眺めていたくなって、そこへ腰を下ろす。
「迦羅さん」
「…あ、佐助くん」
ふらりと現れた佐助くんが私の隣に腰を下ろすけれど、いつもみたいにお喋りするでもなく、私はただあの躑躅を見つめている。
「何か悩んでいるの?」
「…うん」
「話したいことがあったら、俺はいつでも聞くよ」
「うん…幸村のことなんだけど…」
佐助くんは嫌な顔一つせずに
私の紡いでいく言葉に耳を傾けてくれた。
「なるほど。そう言うこと」
「…やっぱり、恋文なんて預かるべきじゃなかったのかな」
「でも迦羅さんにしてみれば仕方なかったと思う」
「でも…」
「確かに幸村の気持ちもわかる。俺も同じ男だからね。自分の恋人が、他の女の人の恋文なんか持って来たんじゃ混乱するよ」
「うん…」
「だからと言って、迦羅さんを想う幸村の気持ちがそんなものに負けるとは思えないんだ」
「えっ?」
「幸村を見ていればわかる。迦羅さんは何も不安に思わなくていいんだ」
風に揺れる躑躅の花がひとつ
池の水面に散り、波紋を広げた。