第1章 心の在処(織田信長/甘め)
夕餉の後、少し冷えてきた縁側に座り、紺色に染まっていく空を眺めていた。
あちこちに星が出始め、何を思うでもなく、それを眺めた。
「何をしている」
不意に声を掛けられ振り向くと
信長様がニヤリと笑い見下ろしている。
相変わらず意地悪な、冷たく淡々とした瞳を向けられるけど、私はもう恐怖は感じなかった。
「今日は少し忙しかったので、此処でただぼーっとしていたんです」
信長様は呆れたように笑うと、私の隣に腰を下ろした。
「働くのはいいことだ。だが、無理はするな」
言い方は冷たいけれど、私を気遣っているような言葉に思わず目をみはる。
「えっ…心配して下さるんですか?」
しまった、とでも言うように信長様は視線を外した。
「誰が心配していると言った、おかしな奴だ」
「ふふ、ありがとうございます」
思わぬことに嬉しくなり迦羅は笑みをこぼす。
少しの沈黙の後、信長が口を開いた。
「秀吉から聞いたか?」
ー昼間のあの話だ。
謀反を企てる敵のもとへ討って出ると。
「はい、聞きました。心配いらないって…」
「当然だ。この俺に謀反など、くだらんことを企てたことを俺が後悔させてやる」
「信長様も行くんですか!?」
「当たり前だ。俺が行かずに誰が行く」
信長様も行くなんて秀吉さんからは聞いていなかった。
わざわざ自ら出向かずともいいのに…
「数日で片付くことだ。貴様が気にする必要はない。」
余裕の表情を崩すことなく、告げる。
確かにこの人は強い。
きっと言葉通り何事もなかったように帰ってくるだろう。
そう思うはずなのに…不安で堪らない。
すると私の不安を察したかのように
す、っとたくましい腕が伸びて私の頬を僅かに撫でる。
「貴様はただ俺の帰りを待っていればいい」
先程とは違う、何か熱を宿したような、大丈夫だと言い聞かせるような強い瞳に見つめられ、心臓がトクトクと騒ぎ出した…。
私は、この人に恋をしているんだ…。