第46章 悪戯な恋文(真田幸村/甘め)
城へ戻ると、幸村はまだ仕事をしているみたいで、部屋には居なかった。
…良かった。
正直、まだ心の準備が出来ていない。
でも、受け取ったからにはちゃんと幸村に渡さないと…。
懐にしまった文を伝って、淡々とした不安がよぎっていく。
ーガラッ
襖の開く音に肩が小さく跳ねた。
「お、帰ってたのか」
「あ…うん、ただいま」
「っつーか突っ立って何やってんだよ」
「ううん、何でもない!」
…駄目だ。言えないよ。
幸村を目の前にしたら、恋文を預かってきたなんて、言えなくなってしまった。
「おい、行くぞ」
「…え?何処に?」
「あの人が酒呑むから付き合えってさ」
「あ、うん…」
幸村はごく自然とわたしの手を取って歩き出すー。
部屋から広間までの、たったこれだけの距離でさえも。
それが、堪らなく愛おしい。
繋いだ手にキュッと力がこもり、それに応えるように握り返す手。
幸村を…誰にも、渡したくない。
「来たか、遅いぞ」
「別に俺たちまで呼ばなくでもいいんじゃないですか」
広間では既に謙信様がお酒を呑み始めていた。
信玄様と佐助くんも揃っている。
「無表情と女たらしだけでは興が無い」
「言ってくれますね」
「女たらしとは心外だな」
「おい幸村。いい加減にその手を離せ」
謙信様の視線は、繋がれたままの私たちの手に注がれている。
「別にいいじゃないですか」
頬を赤らめなから、幸村はそっと手を離した。
遠くなる温もりがちょっとだけ寂しいけど
照れた横顔を見ると、幸村も同じに感じていることがわかった。
「 迦羅、お前はここへ来て酌をしろ」
「あ、はい」
「…結局迦羅に酌させたいだけじゃないですか」
「何か言ったか?」
そうしてこのいつもの凸凹な顔ぶれでお酒を呑むうちに、私は幸村に文を渡さなければならないと言う大事なことを…すっかり忘れてしまっていた。