第46章 悪戯な恋文(真田幸村/甘め)
楓ちゃんとの時間はいつもあっと言う間。
小物屋さんを覗いたり
呉服屋さんを覗いたり
並ぶ露店を覗いたり
特別なことをするわけじゃないんだけど、同い年の女の子とこんな風に遊ぶなんて無かったからかな?
いっぱいお喋りして、いっぱい笑って、楽しい時間はあと僅かになった。
「ねぇ、甘いもの食べようよ!」
「そうだね、喉も乾いたかも」
二人でお茶屋さんに入り、夕暮れが迫る刻を過ごす。
「今日も楽しかったね、楓ちゃん」
「うん、そうだね」
…ん?楓ちゃん、何かそわそわしてる?
さっきまでの勢いは何処へやら
急に大人しくなる楓ちゃん。
「どうかしたの?」
「あのさ…迦羅ちゃんにお願いしたいことがあるの」
「うん、何?」
「…知り合いなんだよね?幸村様と…」
え、幸村?
予想外に飛び出した幸村の名前に
トクン、と胸が鳴った。
「う、うん」
私の返事を聞いた楓ちゃんが、懐から何か取り出した。
「出来たらこれを、渡して欲しいの…」
目の前に差し出されたのは、綺麗な封筒に入れられた文ー。
これってもしかして…
幸村への恋文…だよね?
「駄目かな?」
不安そうに私の顔を伺う楓ちゃんは、僅かに頬を染めている。
「いいよ、渡しておくね!」
断ることも出来ず、私はその文を受け取った。
すると途端に安心したように微笑み、ありがとうって。
…まさか楓ちゃんが…幸村に恋してるなんて…
「迦羅ちゃんは、いい人居るの?」
「えっ?」
「だって迦羅ちゃん可愛いもん、男が放っておかないでしょ?」
「そ、そんなこと無いよ!」
「そうかなぁ?でも、恋くらいしてるんでしょう?」
「それは…一応は…」
まさか相手が幸村だとも言えず
幸村だと悟られるわけにもいかず
ドキドキと変な緊張が襲いかかったー。
「じゃあまた来月だね!」
「うん、楽しみに待ってるね」
「私も。またね、迦羅ちゃん!」
露店を畳んだお父さんと一緒に、手をひらひらと振る楓ちゃんは通りの向こうへ歩いて行く。
私はその姿が見えなくなるまで
その場を動けなかった。