第5章 甘美な罠(徳川家康/甘々)
家康と初めて朝を迎えた日以降、家康は毎日忙しく仕事に追われて、顔を合わせてもろくに会話も出来ていない。
私も針子の仕事や、城内の雑用でそれなりに忙しく過ごしているけれど…家康のことを考えない日はなかった。
私はひと息つくため、部屋でお茶を淹れていた。
「あーぁ、寂しいなぁ」
ぽつりと気持ちが口をついたその時、襖がガラっと開けられる。
ビクッとして顔を上げると
「暇か?迦羅」
顔を出したのは政宗と三成くんだ。
家康ではなかったものの、思わぬ訪問に少し嬉しくなった。
「暇というか、休憩中。お茶淹れるから、どうぞ」
笑顔で二人を招き入れ、三人でお茶を飲む。
政宗の料理の話や三成くんの食生活の話、私の作る着物の話。
そんな他愛のないやり取りに、心に積もった寂しさが、少し和らいだ気がした。
「さてと、そろそろ戻るか」
そう言って政宗が立ち上がり、三成くんも続く。
「二人とも、ありがとう」
多分この二人は、私が寂しがっていることをわかったうえで、わざわざ顔を見せに来てくれたと思ったから。
「邪魔して悪かったな」
政宗はいつも通り勝気な笑みを浮かべて去って行く。
三成くんは私を振り返り、言った。
「家康様は今、大事な仕事を抱え忙しくしてらっしゃいます」
「うん、そうみたいだね…」
「ですが、あと数日もしたら、落ち着くでしょう」
天使のように微笑み、頭を下げて行ってしまった。
あと数日…か。
三成くんの気遣いに感謝しながらも、家康に逢える嬉しさで胸がいっぱいになった。
「さてと!私も働こう」
気合いを入れ、部屋を出た。