第5章 甘美な罠(徳川家康/甘々)
チュン…チュチュン…
小鳥の囀る声が耳に入り、朝を感じた。
「んーっ」
布団の中で小さく伸びをすると、背中から温かい腕が回される。
「起きたの?」
「えっ、っ?」
その声にハッとして身体を起こそうとするが、回された腕がわざとらしく力を込め、それを拒んだ。
うなじにちゅ、とくすぐったさが触れる。
あ、家康の御殿に泊まったんだ…
昨夜のことを思い出したら急に身体がカァっと熱を上げた。
ー初めて、家康と身体を合わせたから…
「もう少し寝てなよ」
密着した背後に家康が居るかと思ったら、それだけで堪らない。
私のお腹のあたりを抱く腕が、す、っと動き、
優しく髪を梳かす。
その手が耳に触れた瞬間、身体がビクッと反応してしまった。
「さっきから黙ってるけど、わかってるからね」
意地悪そうに耳元で囁くと、私の身体を自分に向かせた。
間近で見る家康は、まつ毛が長く、綺麗に整った顔をしている。
澄んだ瞳に吸い込まれて見つめていると…
「何とか言いなよ」
と家康のほうが視線を逸らす。
ほんのり目元が赤くなっている。
「…照れてる?」
「馬鹿言わないでくれる」
素直じゃない家康が可愛らしく思えた。
そんなこと言ったら怒られるから言わないけどね。
こうして二人で朝を迎える気恥ずかしさが襲い、すかさず頬が熱を上げた。隠れるように、そっ、と家康の胸に顔を埋める。
また、優しく髪を梳かれる。
「…迦羅」
掠れた声で名を呼ばれ、顔を上げる。
見合った二人は、唇を合わせるだけの短い口付けをした。