第45章 飴と鞭と甘い罰(織田信長/甘め)
広間へ入ると、上座で寛ぐ信長様はニヤリと笑った。
人の苦労も知らないで!!
絶っっっ対言わないからね!秀吉さんて!
堅い意志を伝えるように睨んでみると
声にはしないけど信長様の口元が動いた。
(せいぜい頑張れ)
もー!!悔しい!!
既に膳の並べられた席へ座ると、さっそく試練がやって来る。
「迦羅、良い着物を着ているな」
「あ、はい。ありがとうございます」
光秀さん…いきなりそこに触れないでよ…。
「お前が作ったのか?」
「はい」
「お前にしては珍しい色だ」
「これは秀……じゃなくって、そちらのお兄さんが選んでくれました」
にっこりと笑って秀吉さんを見ると、豆鉄砲でも食ったかのような顔をしている。
「くっ…」
上座からは信長様の押し殺す笑い声が聞こえる。
「お兄さんなんて急に呼ぶなよ…」
秀吉さんは皆の前で恥ずかしそうに頬を赤らめる。
ごめんね秀吉さん!
今だけ許してっ!
恨むなら信長様だからね!
「おいおい、どうしたんだよ迦羅」
「今日はお兄さんて呼びたい気分で!」
「はぁ?」
「迦羅様、具合いでも悪いのですか?」
「え?違うよ、大丈夫。あはは」
もう誤魔化すしかないな。
信長様の目が光ってるんだから。
しかしその後、皆が領地の話や政の話を延々としてくれたお陰で、私は会話に混ざることなく夕餉の時間が過ぎていった。
はぁ…助かった。
どっと気疲れした私はもうくたくただった。
席を立った信長様が私の腕を掴んで立たせる。
「先に戻る。皆今日はご苦労だった」
信長様の後に続き、私も広間を出ようとすると、追いかけるように秀吉さんに声を掛けられた。
「迦羅、ゆっくり休めよ」
「うん、ありがとう秀吉さん」
………ああぁっ!!?
振り返った信長様は、何も言わずにただ笑みを浮かべていた…