第45章 飴と鞭と甘い罰(織田信長/甘め)
すべての書状に目を通し終えた信長様。
「お茶でも淹れましょうか?」
「いや、いい」
そしてひと息つくと、胡座をかいた膝をポンと叩いて私を呼ぶ。
…やっぱり、私が好きなことは全部知ってる。
おずおずと側へ行き、信長様に抱え込まれるように足の間に収まった。
最初は恥ずかしかったけど
今はこうして信長様のトクトクと打つ鼓動を聞くのが心地いい。
「貴様はいつも温かいな」
「ふふっ、信長様もですよ」
何をするでもなく、こうしてただくっついている時間も、私と信長様が好きなもの。
包み込んでくれる大きな手が…好き。
「その着物、見たことがないな」
「あ、はい。出来上がったばかりなので」
「貴様に良く似合っている」
「本当ですか?良かった」
「だが、貴様にしては珍しい色だな」
あ、そう言われれば。
若草色の着物って、初めてかも。
「誕生日の時に秀吉さんがくれたんです」
「…秀吉?」
「はい。たまには自分の着物を作れって」
「なるほど。それでその色か…」
「でも、とても可愛くて私は好きです」
「ほう…」
何かを考え込むように遠くへ視線を投げる信長様。
どうしたんだろう?
「おい貴様」
「何ですか?」
「今日一日、秀吉という単語は禁止だ」
「え?どうして?」
「どうしてもだ。言うことを聞けるな?」
「でも…呼ぶ時は?」
「名でなくとも呼べるであろう」
「そんな…」
何で急にそんなこと…。
秀吉さんは秀吉さんとしか呼びようが無いんだけど。
「何だ。そんなに秀吉と言いたいのか」
「別に、そういうわけでは…」
「ならば黙って聞け。言いつけを守らなければ、仕置きだぞ」
笑みの消えた顔でじっと見つめられ
私は何の反論もできなかった。