第44章 飴と鞭と甘い罰(石田三成/甘々)
通い慣れた道を真っ直ぐに歩く。
いつもより、通り過ぎる人々に注意を向けて。
何処から来るかわからないって三成くんが言うから。
「流石にこんなに用心深く歩くと、ちょっと疲れるかも…」
しかし、特におかしなことも無く反物屋さんに辿り着いた。
「こんにちは」
「やあ、待ってたよ!」
注文していた鮮やかな反物を受け取ると、その嬉しさでさっきまでの緊張感が一気に解ける。
うわぁ、やっぱり綺麗!!
早く帰って仕立てにかからなくちゃ。
「どうもありがとうございました!」
「気を付けてお帰り」
真新しい反物を大事に抱え、また来た道を真っ直ぐに帰る。
とある路地に近付いた時、一人の男性が困ったように声を掛けてきた。
「助けてもらえませんかっ!?」
「…どうかしたんですか?」
人の良さそうな顔であまりに切羽詰まった様子に、私は思わず返事をしてしまう。
「この奥で母が倒れてしまって…」
「ええ!?」
「心の臓に持病があるんです、どうか手を貸して下さい!」
「わ、わかりました!」
男性に促されるまま路地に入ったところで少し冷静になる。
…倒れている人を私一人ではどうにも出来ないよね?
男手があったほうが。
「あの、私誰か呼んで来ます」
再び通りに戻ろうとしたところを、後ろからぐっと身体を押さえ付けられた。
ー!!?
「…大きな声を出すなよ」
ぞくりとするような低い声が耳にかかり
恐怖で足が竦む。
「今日はいい日だ。お前みたいないい女を捕まえるとは」
気持ちの悪い生温い吐息を吹き付けられて、咄嗟に身を捩るけれど、目一杯の力で羽交い締めされた身体は逃げ出せない。
「んー…!」
口元は手で覆われ、僅かな声が漏れるだけだった。
…どうしよう
怖いよ、三成くんっ…!!