第43章 雨のち晴れ(徳川家康/甘々)
ー同日・午後ー
…はぁ。
力無い溜め息が勝手に溢れた。
掻き消そうとしても、何度も浮かんでくる、二人の姿。
そんな顔はさせない、か。
書庫へ向かう途中、広間へ差し掛かった時だった。
「私がやりますから大丈夫です!」
「お前の背丈では届かないだろう」
「伸ばせば届きますよっ…!」
「いいから貸してみろ」
聞こえて来たのは迦羅と光秀さんの声。
…今度は何やってるの。
そっと覗いてみると、どうやら掃除しているらしい。
光秀さんが迦羅からはたきを取り上げ、欄間をはたいている。
「せっかく晴れたのに、雨が降るじゃないですか」
「ほう、俺がお前の手伝いをしているからか?」
「普段は絶対手伝ってくれないのに…」
「ああ、今日は嵐になるぞ」
「ふふっ、何ですかそれ」
…本当に嵐になりそう。
っていうかやけに楽しそうだけど。
何なの?行く所行く所で…
「もういいですから仕事に戻って下さいよ」
「そう邪険にするな」
「本当に大丈夫で……わっっ!」
はたきを取り返そうと手を伸ばした迦羅が、体勢を崩して光秀さんの胸に倒れ込んだ。
ー!!?
「お前も意外に大胆だな」
「ち、違いますっ!!」
慌てて離れようとする迦羅の手首を掴む光秀さん。
からかう表情が一変して、真剣な目で見つめる。
「このまま、俺に乗り代えるか?」
「えっ…何言ってるんですか!?」
「…俺が本気だと言ったら?」
「またそうやって…」
「いつもからかっているとは限らないぞ」
「み、光秀さん…?」
…っ!!もう見てられない。
信長様も光秀さんも、いい加減にしてよね。
迦羅は、俺のだから。
つかつかと中へ歩みを進め、迦羅の腕を掴んで光秀さんから引き剥がした。
「家康っ!?」
「いいから行くよ」
「え、あの、待って…」
有無を言わさずに引っ張り出して、廊下を進んで行く。
こんなに、胸がもやもやする。
誰かにあんたを取られると思うと、すごく嫌だ。
…絶対に、渡さないよ。
「予想通りの展開…というわけか。
ククッ、面白い。」