第43章 雨のち晴れ(徳川家康/甘々)
夕暮れも押し迫った頃ー
昼間の迦羅が見せた悲しそうな顔が頭をよぎり、少し心配になった俺は、迦羅の部屋に向かっていた。
「迦羅?」
声を掛けてみるけど、返事がない。
まだ戻ってないのかな。
けど、微かに人の気配があった。
そっと襖を開けてみると、縫いかけの着物を手にしたまま、壁にもたれかかるようにして迦羅が眠っている。
あんまり穏やかな寝顔にその場を去ることが出来なかった俺は、足音を消して近付き、迦羅と並ぶようにして壁に背を預けた。
「ねぇ、迦羅」
返事がないことはわかってる。
ただ、普段言えずにいることを、聞いて欲しくなったんだ。
俺のこと、嫌いにならないよね?
あんたには、いつも隣に居て欲しい
すぐ側で、笑ってて欲しいんだ
こんなことも、素直に言ってあげられないけど
俺はいつでも、あんたを見てる
迦羅のこと…すごく、好きなんだ。
片方の腕を伸ばして
こくりこくりと揺れる迦羅の頭を抱き寄せる。
肩に感じる重みが心地いい。
きっとさっきのは、あんたが寝てるから言えたんだ。
でも、本当は、起きてる時に言いたい。
それを聞いたあんたが、どんな顔するのか見たいから…。
「…家康…」
あ、起きた…?いや、まだ寝てる。
俺の夢、見てるの?
そうだったらいいけど。
本当は今すぐ起きて、俺を見て欲しい。
でも、幸せな夢を見てるのなら…
そっとしておいてあげる。
頭のてっぺんにそっと唇を落とし
その身体をゆっくりと壁にもたれさせた。
そしてまた足音を消して、部屋を出て行く。
…明日になったら、もう一回言うからね。
いつもは言ってあげられない、俺の本心ー。