第43章 雨のち晴れ(徳川家康/甘々)
部屋へ戻る途中、襖の開け放たれた広間から声を掛けたのは、信長様と光秀さんだった。
「お遣いご苦労だった」
「あ、はい」
「ひどい雨だが、大丈夫だったか?」
「はい」
「どうせ家康が迎えに行ってやったのだろう?」
「ええ、まぁ…」
歯切れの悪い私を気にしてか、信長様が中へ手招いた。
でも、着物が濡れたままだし…
「そのままでいい。来い、迦羅」
信長様に促されるままに広間へ入り、二人の前に腰を下ろす。
脇息にもたれた信長様は、訝しげな顔で私を覗き込んだ。
「何故そんな顔をしているのだ」
「いえ、別に何も…」
下手な心配をかけないように笑ってみるけど、胸の内を射抜くような信長様の目に、思わず視線を逸らしてしまう。
「貴様は嘘をつくのが下手過ぎる」
「さては、家康と喧嘩でもしたか」
「あはは……」
畳み掛けるように二人に問われ
私は返答に困ってしまった。
「おい貴様、正直に話してみろ」
「お兄さん達に何もかも、な」
お、お兄さん…?
今日はやけにグイグイ食い付いてくるな…
これは、逃げられないかも。
ー結局その後も二人の執拗な詮索に押され、家康の言葉にどう反応して良いかわからなくなることがある、と素直に話した。
「やはり家康のせいであったか」
「あいつ…能天気なお前にそんな顔をさせるとは」
二人ともやけに親身になって聞いてくれて
話したことで、私は幾らか楽になっていた。
「でも大丈夫です!私は家康が好きですから」
「……」
「……」
突然黙りこくった信長様と光秀さん…。
あれ、どうしたんだろう?
「あいつの天邪鬼は筋金入りだ、気にするな」
「そうですね」
「そうだ、気に病むなよ迦羅」
「は、はい」
急に眼光が鋭くなる二人ー。
揃って意味あり気に唇の端を持ち上げていた。
???
何だか気になるけど…気のせいだよね。
励まされた私は二人に御礼を告げ、さっきよりも軽くなった気持ちで広間を後にした。
「あの男捨て置けんな、光秀」
「ええ。さて、どうしてくれようか…」