第42章 愛慕う姫と月兎(上杉謙信/甘々)
「目が覚めてしまいましたね」
「まったくだ」
兎の襲来ですっかり目が覚めた俺たちは
はっきりとした月明かりが注ぐ縁側に出ていた。
後ろから迦羅の身体を包み込むように抱き、もどかしい感情を押し込める。
「やはり、俺に似ているのかもしれないな」
「え?」
「誰に邪険にされようとお前の側に居たがる」
「謙信様…」
手を伸ばして撫でてやると、今度は背を向けることなくうっとりとした表情を見せた。
「だが、迦羅はくれてやらんぞ」
「ふふっ…謙信様ったら」
迦羅は俺に身体を預けて夜空を見上げる。
今宵は見事な月であった。
「月には…兎が居るんですよ」
「ほう」
「十五夜になると、兎たちは餅付きをするんですって」
「ふっ、そいつは是非見てみたい」
「あ、信じてませんね?」
他愛もない話をしながら、こうしてお前と触れ合っている時間はかけがえの無いものだ。
たとえば、そこに兎が一羽居ようとも。
「謙信様?」
「どうした」
「兎も可愛いですけど、私の一番はいつも謙信様ですから」
「迦羅…」
「だから、私を嫌いにならないで下さいね」
こちらに顔を向けた迦羅は、不安気でもあり、懇願するようでもあり、俺の心を大いに乱したー。
何を言っている。
お前のことを嫌いになるなど、天地がひっくり返ったとしても有り得ない。
そんなことはお前もわかっているだろう?
「馬鹿なことを言う口は塞いでしまおう」
「んんっ…!」
堪らなく溢れてくるお前への愛情をどうにも出来ない。
迦羅の身体を抱く腕に自然と力がこもっていく。
唇も身体も心もすべて
お前の何もかもに俺は溺れている…
嫌いにならないでくれと言うのならば、俺のほうだ。