第42章 愛慕う姫と月兎(上杉謙信/甘々)
その日の夜ー
褥に入った俺と迦羅は
僅かな隙間を開けて向かい合うように横になった。
湯上りの仄かな香りが漂い、目を閉じる迦羅の温まった身体からはその熱が伝わってくる。
俺はいつも迦羅の寝顔を確認して眠りにつく。
お前がこうして眠る姿を見るのが幸せなのだ。
が、今日はやけに寝るのが早いな…。
昼間はあの後もあいつに散々と迦羅との時間を邪魔された俺は、いささかもの足りない。
もっとお前に触れたい。
「…迦羅」
「ん…。」
温かな頬を触れてみると、反応するように迦羅が俺との距離を縮めた。そのまま頬を撫でてやるが目は開かない。
無意識に自分の胸に置かれた手が愛おしい。
俺がどれ程お前に狂っているか…
お前には五月蝿いくらいに鳴るこの鼓動が伝わっているだろうか。
いつもの幸せな気持ちとは違い、何故だか今日はお前が先に眠っているのが寂しいぞ。
「迦羅…」
頬を撫で、髪を梳く手で頭を引き寄せると愛しいお前がうっすらと目を開ける。
直ぐ目の前で照れたように微笑むお前が愛しくて堪らない。
少しだけ身体を起こし、欲しいままに迦羅の艶やかな唇を奪うー
近付けば濃くなる迦羅の放つ香りに
俺はいつも抑制が効かなくなっていく。
「ん…っふ」
勝手に深くなっていく口付けを必死に受け止めるように、唇の端から漏れる甘い吐息…
きゅっと握られた胸元の着物。
迦羅…俺の我が儘を、聞いてくれるな?
まだ唇が触れ合っている時ー
「ん、ふふふっ…」
突然迦羅が笑い出した。
「謙信様…くすぐったいですよ」
「俺は何もしていないが?」
「だって…あっ…」
「おい、勝手にそんな声を出すな」
「でも謙信様がー」
迦羅がそこまで言うと、二人の隙間をもぞもぞと何かが這い上がって来る。
ピョコッ
布団の襟元から顔を出したのは…あの兎だ。
真っ白な毛で色違いの目。
「またお前か…」
一体俺に何の恨みがあると言うのだ?
どうしてこうも二人の時間の邪魔をする?
悶々とした俺の気持ちを知ってか知らずか
また迦羅は溢れんばかりの笑顔をそいつに向けた。