第42章 愛慕う姫と月兎(上杉謙信/甘々)
もう…
謙信様ってばどうかしちゃったの?
兎相手に嫉妬している、だなんて。
何だかくすぐったいけど、やっぱりおかしいの。
腕の中の兎を撫でながら、隣の謙信様をチラリと見ると、不機嫌そうな不貞腐れた顔。
ふふっ…謙信様がこんな顔をするなんて。
「ほら、あっちで遊んでおいで」
足元に下ろしてあげると、ピョンピョンと向こうへ跳ねて行く。
そうしてまた隣を見ると、謙信様はまだ難しい顔をしたまま…。
「謙信様?」
「……」
「もう、謙信様ってば!」
着物の袖を引っ張るとようやくこっちを向いた。
でも…
「いつまでそんな顔してるんです?」
「…俺は拗ねている」
視線を逸らして少しだけ尖った唇。
もう何を言ってもだめだ。
こんなに可愛い謙信様を見られるのは嬉しいけど…。
「いい加減に、機嫌を直して下さい」
片方の手を謙信様の頬に添えると
途端に謙信様の顔が柔らかくなった。
やっぱりこの顔に弱いな…私。
「やっと俺を見たな。迦羅」
機嫌が直った謙信様の顔が近付いてくる…
今度は誰に邪魔をされることなく、お互いの唇が触れ合った。
「…っん…」
熱を持て余すように深くなっていく口付けに、二人の吐息が僅かに漏れる。
唇を離すと同時に、私は謙信様の腕の中にすっぽりと収められていた。
私の頭に頬を摺り寄せる謙信様ー
嫉妬深くて心配性で…
時々可笑しなことを言う困った人。
だけど私は、そんな謙信様が好き。
「謙信様……」
温かな陽射しと愛する人の体温にすっかり心地良くなった私は、しばらくそうして謙信様の胸に身を預けていた。