第42章 愛慕う姫と月兎(上杉謙信/甘々)
「そんなに可愛いか」
ぶっきらぼうに尋ねながら、迦羅の隣へと腰を下ろす。
「はい、こんなに可愛いじゃないですか」
迦羅は一羽を抱き上げると
俺に向かって微笑む。
「この子、謙信様に似てるんですよ?」
迦羅に抱かれた兎は、真っ白な毛で左右の目の色が違っていた。
さぞ愛おしそうにその兎に頬を摺り寄せる迦羅を見ていると、不意に大きな不安が襲ってくる。
…俺よりもそいつがいいのか?
確かに似ていると言われればそんな気もするが…
お前の心を占めるのは俺でなければならない。
「謙信様?どうかしたんですか?」
「そいつに嫉妬しているだけだ」
「えっ?」
「余程お前に愛されているらしい」
「謙信様…」
呆れたか?
だが俺は、どんなものが相手だろうと、お前を取り合う覚悟は出来ている。
こんな小さな兎一羽に負ける訳にはいかないー。
「おい」
迦羅の抱くそいつに声を掛ける。
視線が合うと、あからさまに背を向けて迦羅の腕の中で丸くなった。
「何という奴だ」
「ふふっ。そんな怖い顔をするからですよ」
柔らかな笑みを見せるお前が今すぐ欲しくなった。
「…迦羅」
肩を抱き寄せて、次第に近付く二人の唇ー。
が、俺の唇に触れたのは…
ぷにっ。
迦羅の腕の中から体を伸ばした兎の唇。
……こいつ…
「ふふっ、ふふふ」
可笑しそうにくすくすと笑いだした迦羅。
笑いごとではないぞ。
俺とお前の仲を、こいつが裂いたのだ。
「何故だ。何故邪魔をする」
未だに迦羅の腕に抱かれる一羽に睨みを効かせると、すかさず迦羅がそいつを庇うように胸元に引き寄せた。
「そんなに怒らないで下さい」
「いや、怒るに決まっている」
「可哀想じゃないですか」
「俺のほうが可哀想だと思わないか?」
我ながら可笑しなことを言っているのはわかっているが、お前のこととなるとどうにも我が儘になる。
たとえその恋敵が
こんなに小さな兎であってもだ。
こいつめ……覚えていろ。