第42章 愛慕う姫と月兎(上杉謙信/甘々)
さて、午前の仕事は一区切りついた。
早く迦羅の顔を見ねば俺は死んでしまう。
寝起きを共にする迦羅と朝の挨拶を交わし
仕事のため別れたのはほんの一刻程前。
しかし何故だ。
こんなにもお前に逢いたいのだ。
今日も明日も明後日も、俺はそう思うだろう。
今日は部屋で縫い物をすると言っていたな。
はやる気持ちで黙々と廊下を進む。
角を曲がると、待ち焦がれた迦羅の姿ー
と、俺は思わず足を止めて様子を伺う。
陽が注ぐ縁側に座り、迦羅は何やらぶつぶつと一人で喋っていた。
「今日も元気だね、皆」
一体誰と喋っているのだ。
「可愛いなぁ。ふふっ、私のこと好きなの?」
…何?
「うん、私も大好きだよ」
迦羅…この俺を差し置いて誰に愛を囁いている?
お前は一体どうしたと言うのだ。
「迦羅!」
居ても立っても居られなくなり、慌てて迦羅に駆け寄り、そこに居るであろう誰かの姿を探した。
「わっ!…謙信様!?」
「お前、俺を愛しているのではなかったのか?」
「ええっ?どうしたんですか急に?」
目を丸くして不思議がる迦羅の顔。
しかし今、確かに好きだと告げていたではないか。
「謙信様?」
小首を傾げるお前もまた可愛い。
いや、今はそれより…
ん?
覗いた迦羅の足元に、小さい何かが群がっている。
お前たち…
「此処に居たら、皆が集まって来たんですよ」
迦羅の足元で日向ぼっこでもしているらしい。
体を丸くして目を閉じる数羽の兎たちー
身を屈めて迦羅がその背を撫でてやると
また一層うっとりとした顔をした。
「本当に可愛いですね」
余程気に入っているのか、迦羅は俺に目もくれずに兎たちを撫でてやっている。
慈しむような柔らかな顔を見せる迦羅。
お前は、本当に美しい。
だが、兎にばかり構っているのが俺は少々気に食わないが…