第4章 嘘の代償(豊臣秀吉/甘め)
信長と秀吉は、まるで睨みあっているかのように、視線を逸らさずに互いを見やる。
信長の横では相変わらず上気した顔の迦羅が、潤んだ瞳を秀吉に向けていた。
しばしの沈黙のあとー。
信長は大きな声を上げて笑い始めた。
「貴様という奴は…」
「おい、迦羅、聞いたな?この男はお前に惚れているぞ」
目の前の秀吉は酔いと気恥ずかしさからか、真っ赤になり下を向いている。
それを見て信長はまた笑う。
ひとしきり笑い終えると、再び鋭い視線を秀吉に向けた。
「俺の気に入りを手篭めにしようとは見上げた度胸だ」
そう言われ、秀吉は一瞬ひるんだが、もう迷いはなかった。
「畏れ大きことは全て承知のうえ。しかし、こればかりは信長様にも譲れません」
それを聞いた信長はどこか安心したように息をついた。
「で、どうなのだ?」
自らの横で黙ったままの迦羅に顔を向ける。
すると迦羅は、声を堪えながらはらりと涙をこぼしていた。
秀吉は慌てて手を伸ばし、優しく涙を拭ってやる。
次々に溢れ出てくる涙を拭いきれず、堪らず迦羅の手を取り広間を出た。
「まんまと策にかかりおって」
信長がそう呟き愉快そうに笑うと、策を仕向けた本人達は参ったとばかりにそれぞれ笑い出した。