第4章 嘘の代償(豊臣秀吉/甘め)
広間には大勢の家臣達が集められ、信長様の厚意により賑やかな宴が繰り広げられていた。
秀吉は家臣達に囲まれ、部下の教育方法から女の口説き方まで、あれやこれやと質問に攻めらていた。
秀吉はさり気なく広間を見渡し、信長様の横で酌をする迦羅の姿を確認した。
(良かった、笑ってるみたいだな)
安心したのと同時に、しばらくぶりに見た笑顔が自分に向けられたものでないことに、少し寂しさを感じる。
自業自得ってやつかー。
迦羅は信長様に勧められるままに、酒を呑んでいく。
何を話しているかは聞こえないが、次第に頬を上気させていく迦羅を見ていると気が気でない。
そんな秀吉の様子を眺めていた光秀は、信長に目配せをする。
意図を理解した信長は秀吉を自らのもとへ呼ぶ。
「秀吉、貴様も来い」
「失礼します」
頭を下げ、秀吉は信長の前に腰を下ろす。
迦羅は居心地が悪そうな顔をみせるが、仕方がない。
「今日はとことん呑め」
信長は盃を渡し、酌をする。
「では信長様にも酌を…」
そう言う秀吉を制し、空の盃に酒を注いでいく。次から次と。
「信長様、あまり急いて呑むものではありませんっ…」
酔ってきたのか、目元を赤らめ、酌の手を止めようとしない信長に言葉をかける。
「そうか?ならば、迦羅、呑め」
再び迦羅の盃に酒を注ぎ始める。
ゆっくりと盃を傾け、酒を呑みほす。
迦羅はだいぶ酔っている様子で、頬を赤らめている。
見たことのないような艶のある姿に、秀吉の胸は騒ぎ出した。
「信長様、これ以上迦羅に呑ませるのは如何なものかと」
「何故だ?酔い潰れたら俺が面倒を見るまでだ」
恐らく本気なのだろう。意地の悪い笑みを見せる。
「畏れながら、それは俺の役目です」
良く通る声でそう告げると、武将達の視線が一気に集まった。
政宗と光秀は、いよいよかと身を乗り出しニヤニヤしている。
「ほぅ…それはお前が兄になったつもりでいるからか?」
笑みを消した信長は鋭い目で秀吉に問う。
しかし秀吉はそれに臆することなく真っ直ぐに答えた。
「確かに、ずっと兄のようなつもりでいました。しかし今は、ひとりの男として迦羅に惚れているからです」
力強い告白に、あたりは静まりかえっていた。