第4章 嘘の代償(豊臣秀吉/甘め)
すっ、と襖が開き三成が部屋へやってきた。
「遅かったな」
「すみません。信長様が突然、今夜宴を催すと仰いまして…事前の準備の手配をしていたもので」
「ほう、宴か」
政宗は楽しげに笑みを浮かべた。
「ところで、何かあったのですか?」
三成は難しい顔をして三人を見下ろす。
「見ての通り何もないが?」
俺は改めて書簡を広げながら返事をする。
「先程迦羅様が慌てたように出て行かれましたが…」
家康、政宗は互いに顔を見合わせ、気まずい雰囲気に飲まれた。
「間違いなく聞きましたね、あれを」
「ああ、こいつはマズイな」
家康と政宗が何か納得したように顔を曇らせる。
その理由は俺もすぐにわかった。
何か用があって此処へ来たんだろう。
しかしこの部屋で迦羅の話をしていたせいで入るに入れず…そして…
(妹みたいなもんだ。それ以下でもそれ以上でもない。)
きっと俺のあの言葉を聞いたせいでー。
「いいんですか、行かなくて」
「…ああ。」
追いかけていったところで、俺は何をどう説明すればいいかわからない。
その後、家康も政宗も、迦羅の名を口にはしなかった。
ただ黙々と書簡の整理を終え、辺りが暗くなる前には城へ向かった。
ー城へ着くと、政宗は家康、三成、光秀を集めて策を練った。
「あいつは酒に酔うと本音が垂れ流しになるだろう?」
「確かに、延々と語り出しきりがない」
政宗と光秀はいい遊びを見つけたかのようにニヤニヤしている。
「要するに、酔わせて迦羅に本音を聞かせてやろうって言いたいんですね」
くだらないとばかりに家康が溜め息をつく。
「それは名案ですね!」
三成は目を輝かせて賛成する。
迦羅が秀吉に惚れていることなど、皆の知るところだった。
秀吉にだけ見せる眩しい笑顔も、照れた顔も、とても妹ではない存在であることは一目瞭然。
「成程。おもしろい。俺も混ぜろ」
威厳のある声が通り、皆のすぐ背後に信長が仁王立ちしていた。
不敵な笑みを浮かべた信長は如何にも愉快そうに言った。
「俺の気に入りをかっさらうか、猿め」
ククッと笑う。
「やるからにはとことん付き合ってやる」
そうして、秀吉の本音を引き出すべく周到な準備が整った。