第37章 戦国狂想曲1幕(信長VS謙信/共通)
信長様の訪問のあと、何となく落ち着かなくなった私は、城を出て馴染みのお茶屋さんに来ていた。
外の縁台に座り、暮れ始めた安土の空を眺める。
「はぁ…」
今日何度目かわからないため息が出る。
「今日はどうしたんだい?浮かない顔して」
お茶とお団子を運んできてくれた女将さんは、私の顔色を伺い心配そうに声をかけてくれた。
「あはは…色々あって疲れちゃって」
苦笑いを浮かべ、何とか誤魔化すけど…
「噂になってるよ。魔王と軍神が迦羅さんを取り合ってるって」
…謙信様が安土城に乗り込んで来たこと、噂になってるんだ…。
顔を近付け小声で言う女将さんは、心配そうでもあり、楽しそうでもある。
私は何と言っていいかわからなくて
黙っているしかなかった。
「恋なんてね、気持ちを伝えなきゃ始まらないからね」
私を勇気づけるかのようにそう言うと、店の奥へ戻っていく。
「伝える…か」
お茶を持つ手に視線を落とし
これからどうしようかと考えていた。
その時、誰かが私の隣に腰を下ろした。
「ここに居たか」
顔を上げると、心配そうな顔をした謙信様。
「謙信様…」
「お前に謝ろうと思って探していた」
「…謝る?」
「佐助に言われた。お前の気持ちを考えていないと」
それ…さっき信長様も言ってた…
「確かに俺はお前の気持ちなど考えてはいなかった」
「…はい」
「だが、心底惚れていると言うのは嘘ではない。お前の全てを俺に捧げて欲しいと、紛れもない本心なのだ」
「謙信様…」
「俺はお前を愛してしまった。気が狂いそうな程に」
あまりに綺麗な色違いの目と
紡がれる言葉に、胸が複雑に騒ぎ出す。
謙信様の大きな手が、縁台に置かれた私の手に重なる。
「お前を困らせるつもりはない。だが、俺は諦めるつもりもない」
重なった手がキュッと握られると、謙信様は手を離して立ち上がり私に背を向ける。
「明日には越後へ戻る」
それだけ言うと、人通りの中へ消えて行った。