第37章 戦国狂想曲1幕(信長VS謙信/共通)
朝以来、静まり返った安土城。
私は自室で縫い物をしていた。
「はぁ…」
あの時、頭に来て思わず怒鳴ってしまったけど…
あれはあの二人が不器用なだけだったのかもしれない。
こんな時代だから、刀を交えることで勝負しようなんて考えたんだよね。
でも、どっちにしても、私の気持ちなんかどうでも良かったんだ…。
何か、悔しいな。
ーサッサッサッサッ
ゆったりとした足音が近付き、襖の前で止まる。
「入るぞ、迦羅」
「信長様!?」
どうぞと言う前に襖が開き、いつもと変わらぬ顔をした信長様が私の前に腰を下ろす。
「……」
今朝のことがあり、まともに顔が見られない。
「すまなかった」
「え…?」
「貴様の気持ちを考えていないと、佐助に言われたのだ」
「私の気持ち…?」
「俺は貴様を愛している。だが、貴様が俺をどう思っているかなど、聞こうともしなかった」
「…はい」
「謙信が貴様を迎えに来たと乗り込んで来た時、何がなんでもくれてやるものかと思った」
「それって…」
「改めて言う。俺は貴様が欲しい。身も心も、俺の側に居るのは貴様でなくばならん」
「………」
あの信長様が、本当に私のことを愛していると…?
私を見つめる真っ直ぐな瞳は
まるで嘘偽りのない澄んだもの。
信長様は私をー
向かいから伸ばされた骨ばった大きな手が、私の頬を優しく包む。
「返事を急かす気はない」
最後にそれだけを言うと、信長様は部屋を出て行った。
足音が聞こえなくなり
私の心臓は壊れたように早鐘を打ち続けている。