第4章 嘘の代償(豊臣秀吉/甘め)
今日は政宗と家康が俺の御殿へ来ていた。
政宗が用意した朝餉を食べ終え、書簡に目を通し、様々な案件について話し合っている。
だが、その間も昨日の迦羅の様子が頭をちらつき、いまひとつ集中できずにいた。
書簡に目を通してはいるものの、一向に視線が進まない。
「一旦、休憩しますか」
家康が一言発し、俺をチラリと見る。
「そうだな、茶を淹れる」
俺はいつも通り手際良く茶を淹れていく。
「で、何かあったんですか?」
さほど興味もなさそうに家康にそう尋ねられた。
「さっきから見てますけど、全然進んでませんよ」
「そう言えばそうだな。らしくない。」
政宗も一緒になり、不可解そうに俺を見ている。
「何を言ってるんだか」
「さては女か?」
政宗が不気味に笑い、身を乗り出してくる。
「迦羅とは何もないって言ってるだろう?」
その瞬間、家康と政宗は顔を見合わせた。
「誰が迦羅の話をしたんですか?」
「こりゃいいや、あんたは迦羅のことで悩んでたのか」
政宗が盛大に笑い出してしまった。
完全に墓穴を掘ったなー。
でもまあいい。聞かれちゃまずい話でもない。そう思い、昨日のことを話した。
「成程な、突然そんな態度を取られた意味がわからないってことか」
政宗はニヤリとしながら言う。
「あぁ、俺はあいつに何かしたつもりもないし、機嫌を損ねるようなことを言ったつもりもないんだ」
本当に何なのか想像もつかない。
だがあの時の迦羅の苦しそうな笑顔はただごとではない。
自分の言動を振り返ってみるが、やはり思いあたる節は出てこなかった。
黙って聞いていた家康がぽつりと呟く。
「何にもわかってないんですね、迦羅のこと…」
俺が一番そばに居て面倒をみてるのに、何をわかってないって言うんだ?
「どうでもいいが、あんたは迦羅をどう思ってる?」
政宗に妙なことを尋ねられる。
…本当は妹としてじゃ足りなくなってる。
でも、そんな気持ちは持っちゃいけないんだ。
俺は自分に言い聞かせるように一息つき、質問に答える。
「あいつは妹みたいなもんだ。それ以下でもそれ以上でもない」
家康と政宗は同時に溜め息をついた。
その時、廊下を去って行く微かな足音が、二人には聞こえていた。