第32章 君に甘えたくて(徳川家康/甘め)
まだ陽が高いうちに御殿へと帰ってきた私と家康。
帰り道も、家康は時々足元がふらついて危なっかしかった。
やっぱり薬が効くまで時間がかかるのかな。
お茶を乗せたお盆を手にし部屋へ戻ると、家康は机に向かい書簡を広げている。
「だめだよ!休めって言われたんだから」
家康の手から書簡を取り上げる。
「私は困るよ…家康に倒れられたら」
「じゃあ、やめた」
「え?」
不思議と素直に聞き入れた家康は机を離れ、布団へ入る。
さっきより顔が赤くなってる気がするけど…
そして布団の端を持ち上げながら、自分の隣をポンと叩いた。
「早く来て」
「だ、だめだよ。ゆっくり休んで?」
「一緒に寝てくれなきゃ、やだ」
やだって…
あまりの可愛さに胸がキュンとなる。
「…どうして来てくれないの?」
拗ねるような顔をされて堪らず近付くと、伸びてきた家康の腕に捕まり布団へ引っ張りこまれる。
「ちょっと…家康っ」
至近距離で見る家康の顔は、赤くて火照って…。
熱っぽい顔がゆっくりと迫り、唇が触れる。
「次は、迦羅からしてよ」
「えぇっ…!?」
「俺に口付けするの、嫌?」
「嫌じゃないけど…」
そんな顔で見られたら、困るよ。
いつもの家康じゃないみたいでドキドキしてるんだから。
待ち切れない様子で、家康は少しだけ顔を近付けた。
「もう待てないから、早く」
急かされて、チュッと軽く唇を触れさせる。
不満気に眉をひそめた家康に頭の後ろを抱えられて、懇願するような甘い囁きを聞く。
「だめ。…もっと」
「で、でも恥ずかしくて」
「もっとして、お願い…」
だめだ、もう抵抗できない。
こんな風に家康におねだりされたら、私…
愛しくてしょうがなくて、もう一度唇を合わせる。
家康が頭を押さえ込んで、どんどん口付けは深くなっていく。
「ん…、んっ…」
息苦しさに、呼吸を求めて唇を少し離す。
「ねぇ、逃げないで」
「逃げてるわけじゃ…」
「もっと甘えても、いい?」
再び唇が重なって、長い長い口付けを繰り返した。
いつしか家康は私の胸に顔を埋めて寝息を立てている。
いつもは逆なのに、くすぐったい。
今日の家康はどうしちゃったんだろう。
熱があがってきたのかな。
光秀さんの風邪薬、やっぱり効かないんじゃ…