第32章 君に甘えたくて(徳川家康/甘め)
ん?迦羅?
部屋から出て行った迦羅と入れ違いに、秀吉が光秀の部屋へ入る。
「迦羅が来てたのか?」
「ああ。家康のことでな」
なるほど。
確かにあいつは今日調子が悪そうだ。
「今日は休ませてやるか…」
「それなら、丁度いいものを迦羅にくれてやった」
丁度いいもの?
愉快そうに唇の端を上げる光秀に、何やら嫌な予感がする。
「おい、一体何を…」
「ただの甘え薬だ」
はぁ?
そんなもの聞いたことがない。
毎度毎度わけのわからないことを。
「得体の知れないものを仕入れるのはやめろ」
「お前も飲んでみるか?」
「誰が飲むか!」
憎たらしい顔しやがって。
そんな怪しげなものを飲んで余計に調子が悪くなったらどうするつもりだ。
「おい、迦羅は知ってるのか?」
「知るはずがないだろう」
まったく何て奴だ。
とにかく、妙なものを飲ませないように迦羅に知らせるか。
針子部屋に姿がなく、迦羅の部屋へと向かった。
「迦羅いるか?」
「秀吉さん?どうぞ」
ガラリと襖を開けると、家康もそこに居た。
ーが、家康の前には水筒と空になった包み。
遅かったか…。
念のため確認しておこう。
「薬飲んだのか?」
「ええ、妙な色の甘ったるい薬でしたけど」
妙だと思ったら何故飲むんだ?
今のところ家康の様子におかしな所はないようだが。
それとも光秀の冗談だったか…。
「秀吉さんどうしたの?」
「いや、何でもない」
余計なことは言わないでおくか。
「それより、今日はもう休め」
不調は早めに治すべきだ。
恐らく休むわけにはいかないとか言うんだろうが、今日ばかりは無理にでも休ませる。
返事をしない家康に更に釘をさす。
「言うことを聞いて大人しく帰れよ」
「…わかりました」
納得いかない顔だが、まぁいい。
あとのことは迦羅に任せて、俺も仕事に戻るか。