第32章 君に甘えたくて(徳川家康/甘め)
「ねぇ、大丈夫?」
朝餉を食べながら、家康の顔を伺う。
調子が悪いのか何だかぽーっとしておかしい。
「大丈夫って、何が」
「具合いが悪いんじゃないかなって」
「風邪くらい何ともないけど」
相変わらずだなぁ。
本人は気にも留めてないみたいだけど…
んー、あんまりしつこいと怒られるし、ちょっとだけ様子をみようかな。
城に着いて、それぞれの仕事に向かう。
気がかりではあるけど、帰ったらゆっくり休んでもらおう。
しばらくして、針子部屋に光秀さんが顔を覗かせた。
「迦羅、ちょっといいか」
「あ、はい」
光秀さんの後について廊下を歩いていると…
向こうに書簡を抱えて歩く家康の姿があった。何だか足元がおぼつかなくて、朝と同じくぽーっとしてる。
「やはりな」
光秀さんも家康の体調に気付いているみたい。
「…大丈夫かな」
心配で声を掛けたいと思ったけど、腕を引っ張られて光秀さんの仕事部屋に入った。
「あいつ、風邪でもひいたのか?」
「うん。今朝からなんかおかしくて」
「働き詰めだったからな」
「でも大丈夫だってそれしか言わないし」
そうなんだよね。
大事な仕事をたくさん抱えてるし、簡単に休めないのはわかってる。
でも、あんまり強がらないで欲しい。
「本当はもっと、甘えて欲しいんですけどね…」
少し何かを思案した様子の光秀さんは、一旦奥へ行くと、小さな包みを持って戻って来た。
「風邪ならこれを飲ませてやれ」
机に広げられた包みの中には、毒毒しい程の真っ赤な粉薬。
「……」
「どうした?」
「これ、大丈夫なんですか?」
あまりの見た目に、身体に良いとは思えなかった。
光秀さんがくれるとなれば益々怪しい…。
怪訝に思うのが顔に出たのか、光秀さんがクッと笑う。
「良く効くという薬だ、何を心配している」
「何ていうか、見た目が…」
「良薬ほど口に苦く珍妙な色をしているものだ」
いや、そんなの初めて聞くけど。
「あいつが病に倒れても良いなら、無理にとは言わんが…」
「っそれは困ります!」
怪しさはあるけど、家康が元気になってくれるなら。
御礼を言って包みを受け取り、部屋を後にした。
「ククッ、存分に甘やかしてやるがいい」