第30章 紺碧の涙・前編(上杉謙信/悲甘)
「迦羅、しばしの間寂しくなるな」
「…はい」
「だが、すぐに戻ってくる」
私の不安と寂しさを溶かすように、謙信様は柔らかく微笑むと、そっと抱きしめてくれた。
近隣の国で持ち上がった反上杉軍の謀反を制するため、謙信様とその軍は間もなく西へ向かう。
私はここで謙信様の帰りを待つ。
余計な心配はせずに…笑顔で。
「待っていますね、謙信様」
そう決めたから、精一杯の笑顔を見せた。
「ああ。戻ってきたら、嫌と言う程甘やかしてやろう」
謙信様の手で上向かされ、優しい口付けが降ってくる。
甘やかなその感触が、心配いらないと告げているのがわかった。
城門に出て出立していく上杉軍を見送る。
馬上から振り向いた謙信様が、笑ったー。
そう。何も心配いらない。
私はただ謙信様を信じて待っていればいいんだから。
そしてその笑顔に答えるように、私も笑って手を振った。