第30章 紺碧の涙・前編(上杉謙信/悲甘)
薄暗い部屋だ。
ただ静寂に満ち、酷く寒気がする。
(また繰り返すのですか…)
誰だ?
一体何のことを言っている?
(貴方には守れないものもあるのです)
お前は・・・
そうか。この俺に、恨み言をいうか。
(恨んではおりません)
(ただ、案じているのです)
どういうことだ?
(傷付ける前に…その手を離すのです)
それは出来ん。
俺はもう、二度と過ちは繰り返しはしない。
何も案ずるなー
やがて眩い光が広がり始めると、掠れていく声。
(あなた様に…人を愛するなどー)
また同じ夢か…。
連日と変わらぬ夢から醒めると、いつもの迦羅の寝顔があった。
まだ夜は明けない。
不思議と騒めく胸の音を落ち着かせるように、温かな迦羅の身体をそっと抱きしめた。
この幸福と呼べるものを
離すことなど出来るものか。
抱きしめた迦羅の髪に頬を寄せ、再び目を閉じる。
そして、陽の光に包まれた、愛しい人の夢を見たー。