第29章 照れ屋な彼と林檎飴(真田幸村/甘め)
「ねぇねぇあれ何?」
「あ!あっち見たい!」
「これ美味しそうだよー!」
目を輝かせて次から次へと飛び回る春ちゃんに連れられる形で、私と幸村は城下を回った。
「わあっ!」
何かを見つけたのか、春ちゃんは私達の手をパッと離して駆け出して行く。
「あっ、待って…!」
人混みの中を慌てて追いかける。
その姿はすぐに見つかった。
「はぁ…急にどうしたの?」
足を止めた一画には、低い柵で囲まれた中に何羽もの兎がいた。
「うわぁ、可愛いね!」
手を伸ばす春ちゃんに撫でられた兎は、気持ち良さそうに目を細めてうっとりしている。
私も一緒になって可愛らしい兎を撫でた。
おっとりとした兎にも
自由奔放な春ちゃんにも、何だか癒されるような気がして。
「ったく、どっちが子供かわかんねーな」
背後では幸村が、呆れたようにも満足そうにも二人を見ていた。
歳の離れた妹のような春ちゃんを連れ、お祭りを巡る穏やかな日は過ぎていく。
陽が暮れ始めて、私達は呉服屋さんへと戻ってきた。
「せっかくお二人の所、すみませんでしたねぇ」
女将さんが深々と頭をさげる。
「いいんです。とても楽しかったですから」
「お守りすんのに一人も二人も一緒だからな」
カラッと笑う幸村も、いい気分転換になったみたいだし。
ん?
「ちょっと!今のどうゆう意味!?」
「そのまんま」
もうっ、子供扱いして!
そんなやり取りを見ていた春ちゃんが、私の着物の袖を握った。
「お姉ちゃん、私にも今度教えてね」
「ん?」
「幸兄みたいなかっこいい人の捕まえ方!」
「えぇっ!?」
びっくりして返事を出来ずにいると、ヒラヒラと手を振って女将さんと共に店の中へと入っていった。
ませてると言うか…
しっかりしてると言うか…
恐るべし、春ちゃん。
「ありゃ将来が楽しみだな」
あっ…。
可笑しそうに笑っている幸村が、また、当然のように手を繋いでくる。
指を絡めた、恋人繋ぎー。
視線が合った私達は、少しの間見つめ合う。
ほんの少し紅くなった幸村の頬…
きっと私も、同じ色に染まっているよね。