第29章 照れ屋な彼と林檎飴(真田幸村/甘め)
「わぁ!幸村ー、早く早くー」
「おい、転ぶなよなー」
春麗らかなこの日、春日山城下では大きなお祭りが開かれていた。
普段よりも賑わい、活気のある城下についはしゃいでしまう。
「今日は人も多いんだ。はぐれるなよ」
そう言って繋いでくれる幸村の手は温かくて頼もしい。
触れることも、触れられることも当たり前になったけど…
このドキドキはいつも新鮮。
「はぐれるかもしれないから、離さないでね」
「…お前なー」
キュッと強く握り返した手に、照れたような幸村がそっぽを向いて歩き始める。
こんなにたくさんの人が居るのに
私には、幸村だけが輝いて見える。
「ふふっ」
きっと幸村も…同じでいてくれるよね?
通りに所狭しと並んだ露店を、二人並んで見て回る。
「おや、今日も仲がいいねぇ」
「相変わらずお似合いだよ」
すでに顔見知りになった城下の人々に声を掛けられ、胸がくすぐったくなる。
そして、いつも着物を作る時に生地を買うためお世話になっている呉服屋さんの前に来ると、見慣れた女の子がいた。
「あ!幸兄〜!」
人懐こく幸村に飛びつくと、幸村も応えてその頭を撫でる。
「おう、相変わらず元気だな」
「うん!」
この子は呉服屋さんの六歳の末娘、春ちゃん。
幸村のことが大好きなんだって。
私がここへ来たばかりの頃は、幸村の隣に居る私のことが嫌いだったらしく、顔をあわせると睨まれたっけ。
でも今は、私のことを認めてくれている。
幸村から離れた春ちゃんは、私に向き直りにっこりと笑った。
「春も一緒にお祭り見たい!」
「じゃあ三人で行こっか」
隣を見ると、幸村も黙って頷いていた。
呉服屋さんに声をかけた後、三人で賑やかな通りを歩く。
春ちゃんは私と幸村の間に入り、それぞれの手を握っていた。