第24章 満月と狼と(徳川家康/甘々)
御殿に着くと、家康はまだ戻っていなかった。
部屋の行燈をつけ、ひと息つく。
遅くなるって言っていたけど、大丈夫かな…。
疲れて帰って来るだろうからお布団の用意でもしておこう。
布団を敷き終え、何となく障子窓を開けると、今日は綺麗な満月だった。
雲もなく、暗い夜空に大きな月だけが浮かんでいる。
「綺麗…」
ぽつりと呟いたその時ー
「っ!!!」
背後から伸びてきた腕にがっちりと身体を固定され、息が止まるかと思った。
でも、首筋に埋められた温もりが家康だとわかると、途端に心臓はドクドクと違う意味で騒がしくなる。
「お、おかえり、家康」
「うん。…ただいま」
家康はすりすりと私の首筋に顔を寄せる。
くすぐったくって身を捩ると、身体に回された腕に力が入った。
「逃げるのダメ」
まるで子供の我が儘みたいな言い方だけど、離れたくないって思ってくれる家康がどうしようもなく愛しい。
緊張していた力を抜き、そのまま後ろの家康に身体を預ける。
何を話すでもなく、しばらく夜の静けさの中でお互いの体温を感じていた。